東京都足立区の建設会社、大和工務店

型枠大工の資格ってどんなの? Episode3

2016/08/05

なるほど、今宵が言っていたサポートってこれか。なんて思いながら俺はシャーペンを持つ腕を動かした。

 

型枠施工技能士の試験まであと二か月。

それまで精一杯勉強に勤しんだ。

 

 

そしてやってきた試験当日。

 

「けんちゃんなら大丈夫だから頑張って!」

「おう!絶対合格してやる」

今宵にはああ言って強がったものの、試験場に入ると緊張のあまり手汗がじわじわと出てきた。

続々と入ってくる人に、心臓の鼓動が早くなる。

(落ち着け…大丈夫だ)

そう自分に言い聞かせながら、試験開始を待った。

 

10分経ったぐらいだろうか。

やっと試験が開始される。最初は学科試験だ。

みっちりやり込んだ成果か、分からずに詰まる問題はなかった。

だが、問題は実技試験だ。

五年前の記憶を辿って頑張るしかない。

 

実地試験は、拾い出しが二時間。組み立てが五時間半だ。

俺は必死に、当時学んだことを思い出した。

不思議と体は覚えているもので、感覚を取り戻すのは早かった。

 

試験で合格かどうか、それは言いきれないが、満足できる仕上がりだった。

 

(やっぱり…型枠はいいな…)

 

心の底からそう思った。

 

 

試験場から外に出ると、今宵がベンチに座って待っていた。

驚いた俺は今宵に駆け寄る。

「今宵…まさかこんな長い間待ってたのか?」

「うん!だって、けんちゃん応援しなくちゃだし」

「…馬鹿だなお前」

変なやつ…。そう思って少し呆れた。

嬉しくないのかと聞かれたら、ウソになるが。

 

「ほら、帰るぞ。今日はカレー作ってやる」

「ほんと!?カレー?」

今宵は瞳をキラキラと輝かせて俺の後を着いてきた。

 

家に帰り、本当に久しぶりの料理をする。

仕事をしていた時は、一か月に一回くらいの割合でカレーを作って食べていた。

そうは言っても玉ねぎと肉だけの簡単なやつだが。

 

今日はニンジンとジャガイモも入れてぐつぐつと煮込む。

今宵はご機嫌に鼻歌なんて歌っている。

「ほら、できたぞ」

ご飯にカレーをかけて目の前に置くと、「いただきまーす!」と手を合わせて言うと、パクリと一口食べた。

「おいひぃ~」

もの凄く幸せそうな顔をする今宵に、思わず笑みが零れた。

 

 

そして迎えた結果発表の日。

 

 

 

結果は、みごと合格。

 

「うおおおおおお!合格!」

「やったよけんちゃん!!」

今宵と思わず抱き合って喜んだ。

「ありがとな、お前が来なかったら、俺は資格取ろうなんて思わなかったよ」

「けんちゃんが頑張ったからだよ」

俺はすぐに就活を始めた。

そりゃ、受けたうちの何社かは落ちたけれど、縁のある会社に内定をもらうことができた。

 

遂に、明日から仕事が始まる。

両親にも報告したら、泣いて喜んでくれた。

 

がむしゃらになれば、何とかなるもんだな。

勝手に無理だと決めつけて、言い訳を作っていたのかもしれない。そう思った。

 

それに気付かせてくれたのは、今宵で…。

 

「ありがとな」

「え?どうしたの?けんちゃん」

今宵は何が何だか分からないと言った表情で俺を見ている。

「だって、お前が来なければ俺は今でもニートだったよ」

それを見た今宵はにへっと笑った。

 

「けんちゃん、そういえば思い出した?」

「は…」

今宵が何を言っているのか正直さっぱり分からなかった。

それを見た今宵はむくれている。

「もーー!けんちゃんのド阿保!」

「な、なんだよ…」

むっとする今宵を見、暫し考える。

そういえば、正体がどうとか言ってたな…。

 

最初の頃はこいつが何者なのか気になっていたが、こうして長い間過ごすと、案外今宵の正体がどうとか気にならなくなっていた。

「お前、前の職場の同僚とかだろ…多分」

「惜しい!正解は~、けんちゃんのハンマーでした!」

「…お前、ふざけてんのか?」

今宵のちゃらけた発言に、暫し固まってしまう。

「ふざけてないよ!本気!」

「だって道具が人間になるわけないだろ」

俺の返答は至極当然だと思う。私は道具です、なんて言われて信じる方がおかしい。

 

と、思ったのだが…

こいつは何で夜中にボロボロの服を着て、素足で立っていたんだ?

 

俺が…型枠大工を辞めた時、愛用していたハンマーを捨てた。

汚いゴミ捨て場に徐に。

 

まさか…な。

 

「けんちゃんゴミ捨て場に捨てるんだもん。酷いよ!」

「ま、まじかよ…」

今宵の発言に、俺は認めざるを得なかった。

 

こいつは、俺が愛用してたハンマーだ。

「じゃあ、なんで今更俺のところに…復讐、しないのか?」

「意識が戻ったら何でかけんちゃんちにいたんだもん。あと復讐なんてしないよ?」

今宵は不思議なことに、全く恨みを持っていないようだった。

「そう…か」

「だって、またけんちゃんと型枠作りたかっただけだし!」

そう言って今宵は本当に嬉しそうに笑った。

 

「だからね、これからもよろしくね!けんちゃん」

「はいはい」

 

これから新しい毎日が、始まる。

 

 

 

 

 

FIN.