過去と現在の大工ってどう違うの? Episode1
今は技術も進んで、道具も豊富だけど、昔の大工ってどうしてたんだろう…。
ふと、そんなことを思った。
昔の道具と設備じゃ、不便だったに違いない。
「今と昔だったら、どっちが良いんだろうなぁ」
「それは難しい質問ですなー」
ふと、隣から聞こえた声に驚いて横を見る。
すると、古臭い作業着を着た男が足を組んで座っていた。
「あの…、どちら様ですか?」
誰もいない作業後の現場。同じ現場で見たこともない男に、思わず尋ねた。
「ん?も、もしかして、私に聞いていますか!?」
驚いた表情の男に心底呆れてしまった。
「貴方しかいないでしょ…、なに言ってるんですか」
はぁ、とため息をついて言うと、前を通った親子連れが俺を指さした。
「ままー!あの人一人で喋ってるよー?」
「しー!こら、見ちゃいけません!」
え、一人?
「どういうことだ…」
「そりゃ、俺死んでるんですもん。ちょっとやそっとじゃ見えませんて」
死んでる!?ゆ、幽霊!?
「え、え、嘘でしょ?嘘ですよね!?」
幽霊はちょっと…、てかかなり苦手だなぁ…。
「嘘なんかつきませんよ、どうせつくならもっと面白い嘘をつきます」
いや、嘘だとしたら十分面白いけど…。
しかしよく見てみると、男の体は少し透けていた。
これは間違いなく幽霊だ。そう確信した。
「本当に幽霊みたいですね…、す、透けてるし」
「おぉ!信じてくれますか!」
物凄く嬉しそうに言う男に、心底呆れてしまった。
「ところで…、今は2015年でしたっけ?」
「え?あぁ…そうだけど…」
男の質問にとりあえず答える。
死んだショックで記憶が一部抜けているんだろうか?
「ですよねー、随分とまぁ、時が経ってしまいましたねぇ」
「時が経ったって…、いくつの時に死んだ…っていうかお亡くなりに?」
「ん?私が死んだのは…確か昭和33年だったかな」
え、昭和33年?
思わず耳を疑った。いや、幽霊なのだからいつ死んでてもおかしくはないのだが…
「なんで、そんな長い間…成仏とか、しないんですか?」
ちょっと失礼な質問かもと思ったが、率直に聞いてみることにした。
「やり残したことがあって」
「やり残したこと?」
「あれを、見たいんです」
男はあれ、といっても特に指さすわけでもない。
言葉のみであれ、と言われても分からなかった。
「あれって…?」
「んーーー、思い出せないんです。とにかく大きくて、凄かったような」
そう言って男は頭を抱えている。
大きくて凄いものなんて、世の中にたくさんあるからなぁ。
「あ!建物です!建物!」
それだけ思い出したようで、意気揚々と男は告げた。
「大きくて凄い建物なんて、たくさんありますよ」
「そ、そっか…そうですよね」
男は少ししゅんとしたように見えた。
とは言え、他の人には見えないわけだし、ここで放り出してしまったら少し可哀想な気がした。
「協力はしますよ」
「ほ、本当ですか!?」
男は瞳を輝かせて喜んでいる。
「そういえば、名前は」
「九重 八千代といいます」
「俺は型枠 大和、よろしくな」
それからというもの、仕事終わりに「見たいもの」を探すことになった。
八千代さんが見たい大きくて凄いもの。
都内だと結構あるが、一体どれのことなのか。少し不安だった。
「そういえば、その見たいものって東京にあるの?」
「多分…、私が東京出身なので、東京かと…」
なるほど。確証はないが、それなら東京にある線が強い。
今まで八千代さんを連れて行った、東京の大きくて凄い建物はたくさんあるが、全部はずれだった。
「あ、そうだ!」
他に何かあるかと考えていた時、ふと大事な建物を忘れていることに気付いた。
東京タワーだ。スカイツリーの影響ですっかり自分の中で薄れてしまっていたが、一番八千代さんが見たそうじゃないか!
「八千代さん、ちょっとついてきて!」
「あ、はいです!」
八千代さんはふよふよと浮きながらしっかり着いてきていた。
電車に乗ってやっとのことで東京タワーの近くまで来た。
「八千代さん!八千代さんが見たかった大きくて凄い建物ってこれじゃない!?」
「こ…れは…」
八千代さんは東京タワーを見て一瞬言葉を失った。
そして穏やかな表情でそれを見ていた。
「ありがとう大和、私が見たかったのは、これです」
「そっか、よかった…」
満足そうな八千代さんの顔にホッとした。
しかし、疑問もあった。
なぜ八千代さんはこれほどに東京タワーを見たかったのだろうか。
何十年もこの世に留まってまで。
「大和、聞きたいことがあるようですね」
「え!?」
「連れてきてもらったお礼です。何でも聞いてください」
すごい。テレパシーか?にっこりと笑って言う八千代さんに驚いた。
「なぜ、東京タワーを見たかったの?」
「そうですね、最初は見たい理由も分かりませんでしたが、こうして連れてきてもらって…記憶が入ってきたように感じます」
「私は当時、東京タワーの建設に携わる鳶職人でした」
続く…