東京都足立区の建設会社、大和工務店

過去と現在の大工ってどう違うの? Episode1

2016/08/05

今は技術も進んで、道具も豊富だけど、昔の大工ってどうしてたんだろう…。

ふと、そんなことを思った。

 

昔の道具と設備じゃ、不便だったに違いない。

「今と昔だったら、どっちが良いんだろうなぁ」

 

「それは難しい質問ですなー」

ふと、隣から聞こえた声に驚いて横を見る。

すると、古臭い作業着を着た男が足を組んで座っていた。

 

「あの…、どちら様ですか?」

誰もいない作業後の現場。同じ現場で見たこともない男に、思わず尋ねた。

「ん?も、もしかして、私に聞いていますか!?」

驚いた表情の男に心底呆れてしまった。

「貴方しかいないでしょ…、なに言ってるんですか」

はぁ、とため息をついて言うと、前を通った親子連れが俺を指さした。

「ままー!あの人一人で喋ってるよー?」

「しー!こら、見ちゃいけません!」

 

え、一人?

 

「どういうことだ…」

「そりゃ、俺死んでるんですもん。ちょっとやそっとじゃ見えませんて」

死んでる!?ゆ、幽霊!?

 

「え、え、嘘でしょ?嘘ですよね!?」

幽霊はちょっと…、てかかなり苦手だなぁ…。

 

「嘘なんかつきませんよ、どうせつくならもっと面白い嘘をつきます」

いや、嘘だとしたら十分面白いけど…。

しかしよく見てみると、男の体は少し透けていた。

これは間違いなく幽霊だ。そう確信した。

 

「本当に幽霊みたいですね…、す、透けてるし」

「おぉ!信じてくれますか!」

物凄く嬉しそうに言う男に、心底呆れてしまった。

「ところで…、今は2015年でしたっけ?」

「え?あぁ…そうだけど…」

男の質問にとりあえず答える。

死んだショックで記憶が一部抜けているんだろうか?

 

「ですよねー、随分とまぁ、時が経ってしまいましたねぇ」

「時が経ったって…、いくつの時に死んだ…っていうかお亡くなりに?」

「ん?私が死んだのは…確か昭和33年だったかな」

 

え、昭和33年?

思わず耳を疑った。いや、幽霊なのだからいつ死んでてもおかしくはないのだが…

「なんで、そんな長い間…成仏とか、しないんですか?」

ちょっと失礼な質問かもと思ったが、率直に聞いてみることにした。

「やり残したことがあって」

「やり残したこと?」

「あれを、見たいんです」

男はあれ、といっても特に指さすわけでもない。

言葉のみであれ、と言われても分からなかった。

「あれって…?」

「んーーー、思い出せないんです。とにかく大きくて、凄かったような」

そう言って男は頭を抱えている。

大きくて凄いものなんて、世の中にたくさんあるからなぁ。

「あ!建物です!建物!」

それだけ思い出したようで、意気揚々と男は告げた。

「大きくて凄い建物なんて、たくさんありますよ」

「そ、そっか…そうですよね」

男は少ししゅんとしたように見えた。

とは言え、他の人には見えないわけだし、ここで放り出してしまったら少し可哀想な気がした。

「協力はしますよ」

「ほ、本当ですか!?」

男は瞳を輝かせて喜んでいる。

「そういえば、名前は」

「九重 八千代といいます」

「俺は型枠 大和、よろしくな」

 

 

それからというもの、仕事終わりに「見たいもの」を探すことになった。

八千代さんが見たい大きくて凄いもの。

都内だと結構あるが、一体どれのことなのか。少し不安だった。

「そういえば、その見たいものって東京にあるの?」

「多分…、私が東京出身なので、東京かと…」

なるほど。確証はないが、それなら東京にある線が強い。

今まで八千代さんを連れて行った、東京の大きくて凄い建物はたくさんあるが、全部はずれだった。

「あ、そうだ!」

他に何かあるかと考えていた時、ふと大事な建物を忘れていることに気付いた。

東京タワーだ。スカイツリーの影響ですっかり自分の中で薄れてしまっていたが、一番八千代さんが見たそうじゃないか!

「八千代さん、ちょっとついてきて!」

「あ、はいです!」

八千代さんはふよふよと浮きながらしっかり着いてきていた。

電車に乗ってやっとのことで東京タワーの近くまで来た。

「八千代さん!八千代さんが見たかった大きくて凄い建物ってこれじゃない!?」

「こ…れは…」

八千代さんは東京タワーを見て一瞬言葉を失った。

そして穏やかな表情でそれを見ていた。

「ありがとう大和、私が見たかったのは、これです」

「そっか、よかった…」

満足そうな八千代さんの顔にホッとした。

しかし、疑問もあった。

なぜ八千代さんはこれほどに東京タワーを見たかったのだろうか。

何十年もこの世に留まってまで。

「大和、聞きたいことがあるようですね」

「え!?」

「連れてきてもらったお礼です。何でも聞いてください」

すごい。テレパシーか?にっこりと笑って言う八千代さんに驚いた。

 

「なぜ、東京タワーを見たかったの?」

「そうですね、最初は見たい理由も分かりませんでしたが、こうして連れてきてもらって…記憶が入ってきたように感じます」

「私は当時、東京タワーの建設に携わる鳶職人でした」

 

 

続く…