東京都足立区の建設会社、大和工務店

型枠大工の安全対策について Episode3

2015/12/24

「ついつい昔のこと思い出しちゃったな。さて続き話すぞ」

「はい!」

「KY活動の重要性は分かったと思うが、どうやって進めていくかは言えるかな?」

「う…」

「KY活動には二つの方式があってだな。4R方式と、2R方式だ」

「4R方式って言うのは、その名の通り4つのRに分けられるんだ」

「KY活動は毎日やっていますけど、方式を考えたことはなかったです。」

「じゃあ、ここでしっかり覚えておいた方が良いな。」

「最初に、1R 現状把握だ。現状把握って言うのは、これからの作業場所の状況、作業内容について作業主任者が説明したり、既に終わった作業の現状を通して、これからの作業ではどんな危険があるか作業者が話し合って摘出することだ。分かりやすいように黒板を使って話し合いをするのが良いな。」

「黒板を使えば、要点もまとまりますね!」

「そういうことだ。次は2R 問題の追求だ。1Rで出した問題があるだろう?それを作業者全員で掘り下げて、「ここが危険のポイントだ」などと話し合って、きちんと危険のポイントを認識することだ。」

「そうすることによって、事故の発生率が大幅に下がりますね」

「危険があるかを出し合ったはいいけど、どこがどう危険なのか分からないという作業者がいたら大変なことになるからな」

「チームワークで行う仕事だからこそ、みんながしっかり理解していないといけないんですね」

「わかってきたじゃないか。さて、3Rは対策の設定だ。2Rで発見した危険のポイントについて、作業主任者が中心になって、「あなたなら、私ならどうする」かを話し合って、どうしたら防げるかの対策を考える。」

「最後は4R 目標の設定。3Rで出された対策の中で、重視すべき重要項目を決めて、「私たちはこうする」とお互いに復唱や指先呼称などをして確認する。そうして初めて、作業に取り掛かることができるんだ。」

「なるほど、納得です」

「2R方式は、4R方式をザックリまとめた感じとも言える。まず、2R方式の1Rは、どこに危険があるかを探すこと。説明を受けた作業内容から、作業者自らが危険だと思うポイントを見つけることだ。ただ、どうしても作業者が見いだせなかった場合、作業主任者からどこがどう危ないのかを説明する。」

「2Rは、その危険なポイントについて私達はどうするか。これは4R方式の4Rと一緒だな。安全に作業を行うための対策を作業者が決める。そして決まった事柄をみんなで復唱することだ。」

「ちなみにな、これは若い頃の俺にも、他の奴らにも言えることなんだが…、慣れてくるとどうしても気の緩みが出てくる。その時にタブーな言動が結構あるぞ」

 

  1. 「現場が変わってもいつも同じ仕事だから、何も起こらないし、大丈夫だろう」
  2. 「昨日も同じ仕事で何も起こらなかったし、まぁいいか」
  3. 「これくらい平気だろう」
  4. 「いつも同じメンバーだし、こんなちょっとの仕事、やってしまえ」
  5. 「そうは言っても、危険も仕事のうちだから多少のことは仕方ない」

「つい、やってしまいがちなことですね」

「そうだ。でもな、慣れてきたからと言って、仕事を軽く見たり、決めたことを守らないことがあるとすれば、それはとても危険だし、周りにも迷惑が掛かるぞ」

「その人の不注意によって、他の人がケガをすることがあるからですね」

「自分一人の仕事じゃないからな」

おっさんの言葉に納得した。

「ちなみに、KY活動について注意しておいた方が良いことをいくつか教えておこう」

 

  1. 他の人の発言を批判しない
  2. 変わった意見でも、気にせずいろいろな意見を出すようにする
  3. 問題点や対策は多い方が良いので、どんどん出す
  4. 意見がほぼ出尽くした時は、似たような意見を取りまとめ、「重要な事柄」を取り出す
  5. 取り出した意見のうち、効果が大きく、すぐに実行に移せるものを解決策、行動目標にしてグループの総意を求める

 

「このことに気を付ければKY活動がもっと良くなるな」

「次から意識します!」

 

「ちなみにパソコン画面の前の皆さんに、型枠大工が定期的に行っていることを紹介しよう」

「パソコン画面の前の皆さん…?」

 

毎日行うこと

  1. 安全朝礼
  2. 安全ミーティング
  3. 使用開始前点検
  4. 作業所長の巡視
  5. 作業中の指導・監督
  6. 安全工程打ち合わせ
  7. 持場の後片付け
  8. 終業時の確認

 

毎週行うこと

  1. 週間安全工程打ち合わせ
  2. 週間点検
  3. 週間一斉片付け

 

毎月行うこと

  1. 安全衛生協議会
  2. 定期点検・自主検査
  3. 安全衛生大会

 

「こんな感じだな」

「確かに、定期的に行っていますね」

 

「しかし、これほど気を付けていながらも事故は起きてしまうことがある」

「はい…」

「そうなったらどうすれば良いか、説明しよう」

「作業中に起きた事故に関しては、労働災害と呼ばれる」

「労働災害?」

「作業者の命、および身体に損害を生じた災害のことだ。死亡、負傷、有害物にさらされた健康上の被害のことだな」

「建設業界だけではなく、一般常識だからこれを機会に覚えろよ」

「はい!」

「その労働災害について、俺達型枠大工はどういうことに注意する必要があるかというと…、墜落、飛来落下、倒壊などだな」

「でも万が一、注意していても起こってしまったらどうすれば良いんですか?」

「それを今から説明しよう。まぁ災害って言うのは、起きる前には何らかの予兆があるもんだ。突然発生したと感じるのは、その予兆に気付いていなかったってことだな。予兆には気付いていて、あぁ、危ないかもなって思ったけど案の定起きました。なんて言わないだろ?」

「た、確かに…」

「それはさておきだ、気を付けていたのに災害が起きてしまった。発生した際に、すぐに避難、救急体制で講じておけば被害を軽減することができる」

「迅速な行動が大事だってことですね」

「そうだな、もし、ケガ人がいた場合は、適切な措置を直ちに行う必要がある」

「ってことは…」

「こういう時はどうしたらいいか、ある程度の知識が必要だってことになる」

「軽傷ならまだしも、命に関わる大怪我だったら…」

「そんな時に不適切な手当てを行ったら、救われるべき命を失うことにもなる。そうならないためにも、万全の措置が必要なんだ」

「万全の措置って、どういうことでしょうか?」

「これも黒板に箇条書きにさせてもらおう」

 

  1. 災害が起きたときに、工事現場だけでなく、そこに関わるお店や会社も、災害が発生したことを想定して対応など、手順を決めておく
  2. 作業者全員の名前、年齢、血液型、既往症および連絡先のリストを作成しておく
  3. 災害発生時の役割分担を決めておく
  4. 特有な災害に対応した救護や、二次災害防止のための設備を準備しておく
  5. 負傷者および疾病患者を受け入れる病院の連絡先や診療科目を掲示する
  6. 救急箱や担架など救護のための設備を常備しておく

 

「まぁ、こんな感じだな」

「すごい、なんでおじさんはそんなに色々なことを知っているんですか?」

「それはだな…、年の功ってやつだな」

年の功か。いくら年の功とは言っても、俺が年を取って若い人にちゃんと教えられるかな。

 

そう考えると、知らない人だけど、やっぱりこのおっさんは凄い人なんだと思った。

「あの、お名前聞いてもいいですか?」

「…お前に名乗るほどでもない、それに、お前は俺の名前を知っていると思うが」

ん?知っているわけがない。変なおっさんだ。

 

「あれ…?」

おっさんが被っているヘルメットが、俺と同じものだと気付いた。

いや、正確にはヘルメットのラインが二本の、職長が被るヘルメットだが…。

(こんな人、うちにいたっけ?)

 

名前が書いてあるはずだと、ヘルメットを凝視したが、夕日でよく見えなかった。

「これからもっと大変なことがあるぞ」

「え?あ、はい」

おっさんの突然の問いかけに間抜けな反応になってしまった。

「お前の成長が、俺のためでもあるんだ」

どういうことだ?俺が訳が分からずにいると、おっさんはヘルメットを脱いで、俺に手渡した。

「これは…?」

「必要になったら使え、俺にはもう必要ないんだ」

「…型枠、辞めるんですか?」

「んなわけないだろ、もっと上にいくんだ」

 

おっさんはおかしそうに笑うと、「早くここまで来い」と言って去って行ってしまった。

 

手渡されたヘルメットを見ると、型枠 大和と書かれていた。

 

 

 

FIN