型枠大工の安全対策について Episode2
「さて、作業主任者は一体何をするのかってことだが…、これは答えられるな?」
「はい、今日の作業の方法や作業者の配置決定、あと、作業を直接指揮します。」
「そうだな、そのためには、作業についての十分な知識と、労働災害の防止についての知識が求められるぞ」
「はい!」
「型枠、お前安全ミーティングちゃんと聞いてると思ったら、聞いてなかっただろ。それで足場を踏み外した」
ギクッ!と思った。でも、このおっさんは、何で俺の名前と今日のミスを知っているんだろう。もしかして、作業を見られていたのかな?そう思うと少し怖かった。
「う…、少し浮かれていました」
「安全ミーティングとは何か、お前ちゃんと言えるか?」
「それは大丈夫です!安全ミーティングとは、作業主任者を中心に、作業者全員が集まって、今日の作業の内容、作業の手順、人員配置、安全上の留意事項についての指示、連絡調整を行い、今日の作業を円滑に、安全に実施することを目的としたミーティングです!」
「うん、その通り。作業主任者は、現場のことや作業のことを知り尽くしているわけだから、そのことを作業者と一緒に安全作業の方法、危険なところについて話し合う必要があるわけだ。作業者を事故に遭わせないためにも。」
「安全ミーティングの手順って、何か決まりとかあるんでしょうか?」
「そうか、そんなことも知らないか…」
う、すみません。おっさんの言葉に思わず黙ってしまった。
「まず、作業者を集めなくちゃならない。その現場に関わる作業者全員だ。もちろん、誘導員も」
「はい」
「作業者が集まったら、服装、体調をチェックする。」
「服装も、体調も良好だったら、その日の人員配置の確認と、作業予定を指示する」
「次に、指示した作業の危険性を見つけて、防止策を確認すること。」
「それが終わったら、今日一日の安全を皆で誓い合うってとこだな」
「確かに毎日その順番でしています」
「気を付けなければならないのが、作業主任者は作業に合った進め方を工夫し、自分に合った話し合いの仕方を身に付けるようにしなくちゃならないってことだ」
「安全ミーティングは、あくまで作業の進め方と安全を結び付け、作業者自身が自分の作業を安全な方向に持ち込むきっかけ、手がかりを得るように進めるべきものだからな」
「そうですね、でも、ついつい雑談みたいなこともしてしまって」
「日常の会話でも、その話を作業と安全の話まで広げて、災害の防止に役立てるなら何も問題はないぞ?」
「それも、そうですね…(難しいよ…、次からは雑談は控えよう…)」
「作業主任者の心構えも何項目かあるんだが…、今のお前には必要ないか」
「知りたいです!今は新人でひよっこですけど…、近いうちに作業主任者になるかもしれないですし!」
「ポジティブだな。若いうちは大きいことを言いたくなるもんだ…」
「なら、よく聞け。作業主任者は次の事柄に気を配り、上手に作業者を導けるようになることを心掛けること」
そう言って、おっさんは後ろにある黒板に何かを書き始めた。
- 話し方は難しい言葉を使わず、日常の口調で話すこと
- 作業者の理解の程度を確かめ、発言が少ないときは質問範囲を狭めたり、質問の仕方を変えたりすること
- 発言者が特定の個人に偏らないように、ときには指名するなど発言者の幅を広げるようにすること
- 作業者が互いに討論するようになることが望ましい
- 自分の意思を押し付けたり、否定的な話し方をしないこと
- 相手が一人でなく、性格、能力の違った集まりであることを考えること
- 何を話題にするか、探す努力をすること
- 互いに相手を信頼し、チームワークがうまくいくように努力すること
「こんな感じだな。簡単に見えて難しいぞ」
「人をまとめるってこんなに大変なことだったんだ」
「さぁ、次は遂にKY活動に入るぞ」
「KY活動を毎日するのは何でか言えるか?」
「安全に気を付けて、事故が起こらないようにすること…ですよね?」
「ざっくり言うとそうなんだが、もっと細かく説明しよう」
「現場には多くの危険性が潜んでいる。それは分かるな?」
「はい!分かります!」
「災害や事故が起こってから、ああしておけばよかった、こうすべきだった、と悔やんでも遅いわけだ」
「その通りです」
「そんな発想では、ダメダメだ。作業中の事故の原因で一番多いのは何か、分かるか?」
「えっと、たまたま物が倒れてきたとか、不運な事故とかですか?」
「確かにそれもある、しかし大体が設備の作業環境に不安定な要素があったとか、不注意な行動をとったことで発生しているんだ」
「こんなことが起きないためにも、毎日のKY活動はとても重要だ。そして、作業主任者は、中心となってKY活動を進めなければならない」
「KY活動って、こんなにも重要なことだったんですね」
「そうだ。意識していないと思うが、KY活動には色々な効果があるんだぞ」
「これもまた黒板に書くか」
そう言うと、先ほど書いたものの横に新しく書き始めた。
- 危険に対する意識が高まる
- 安全に作業を進めようとする意識が芽生える
- 安全を自分自身の問題として取り組めるようになる
- 仕事仲間のチームワークも増し、仕事の出来栄えや生産性もあがる
「見て分かるように、KY活動は効果のある活動なんだ。形だけで適当に取り組まないように」
「はい、すみませんでした」
型枠大工になりたての時は、全てのことに集中して気を抜かずに取り組んでいたのに、今日はつい、道具を持って気が緩んじゃったな。
「型枠、最近自分の道具買っただろ?」
「あ、はい!」
「嬉しいよな、俺もそういう時あったよ」
「おっさんも?」
作業着とヘルメットを見て、同業者だろうとは思っていたけど、俺の近況まで知っていて気味が悪かった。
「入ってしばらくは、気張ってて、KY活動もしっかり取り組めてたのにさぁ、ある日うっかり気が緩んで、当時の職長にだいぶ怒られた」
おっさんは懐かしそうに語った後、はははっと笑った。
3話に続く…