型枠大工の安全対策について Episode1
型枠 大和(かたわく やまと) 19歳
大和工務店で働いている新人。今回は、安全対策について勉強する。
職長
頼りになる職長。厳しいが、大和に密かに期待している。
謎のおっさん 50代中頃
型枠大工のことを色々知っているおっさん。
道具も揃ったし、だんだん型枠大工っぽくなってきたな。
これで俺も立派な型枠大工に…なんちゃって!
嬉しすぎでにやけが止まらない。
「ってうわあ!あ、危ない!」
浮かれて足場をしっかり確認していなかった。
よろけてヒヤッとし、一気に夢心地から覚めた。
「こら型枠!お前ちょっとこっち来い!」
ひえ、また職長に怒られる。
「す、すみませんでした」
俺は覚悟を決めて、職長のもとへ行く。
「謝るってことは、一応なんで呼ばれたかは分かっているみたいだな」
「はい」
あぁ、安全管理を怠ったからきっと職長カンカンだ。
「さっき転落しそうになってたな。朝のKY活動であそこは足場に気を付けろって皆で確認しただろ」
「はい…」
「安全についてあまり重要性を感じていないみたいだから、その重要性を理解するまで型枠を現場に立たせることは出来ない!」
「え!」
そ、そんな…。せっかく道具も揃えたのに。
「ほら、そう言われて「え!」って言う言葉が出ること自体、甘く見ている証拠だ」
職長の言葉にハッとした。
「今日一日、しっかり学習して安全に対しての意識を変えろ。変わらなかったら、現場に立つことは許さない」
結局、今日は現場に立つことができなかった。
「安全に対する意識…かぁ…」
終業時間になり、誰もいなくなった現場を一人眺める。
確かに、今までそこまで意識したことはなかったなぁ。
職長に聞いても、自分で考えて、意識を変えろ。としか言われなかったし。
「教えてやろうか?」
「へ!?」
近くで聞こえた声に驚いて距離をとった。
見ると、おっさんが作業着とヘルメットを被って立っていた。
「な、なんなの!」
「お前があまりにも青臭くて懐かしいからな」
おっさんはそう言っていた。深く被ったヘルメットのせいで顔は見えない。
「どうするんだ?教わるか、教わらないか」
「よ、宜しくお願いします!」
おっさんの問いかけに、俺がそう答えたのを見ると、急に声色が変わった。
「よし、じゃあ安全管理がどんなに大切なことかしっかり叩き込むぞ!」
「はい!」
「安全管理がなんでそんなに大事なのか分かるか?」
「えっと…」
おっさんの言葉に思わず詰まってしまった。理由を聞かれると、正直具体的なことは分からない。
「建設業の労働災害って言うのは、全体のどれくらいだと思う?」
「わかりません…」
教わるとは言ったものの、このおっさんは誰なのか。気になっていた。
「建設業の死亡事故は、全産業の40%を占めているんだ。特に型枠工事による事故や、墜落事故は多く発生してる。」
40%も!?自分の現場で事故が起こったことがないとは言え、そんなに発生しているなんて知らなかった。
「だから、安全を確保することがとても大切なことなんだ。」
そんな重要なことを知らなかったなんて、さっきまで浮かれていた自分が恥ずかしくなった。
「じゃあ、安全を確保するにはどうしたら良いと思う?」
「KY活動ですか?」
「そうだな、KY活動の中で行われる、作業方法の確認とかだな」
「あとはそうだな…、作業主任者を決めることだ」
「作業主任者と職長って、何が違うんですか?」
「職長は、事業場における自社の作業全体について、労働者を直接指導・監督することができる者のことだ。誰でも良いってわけじゃない。職長教育修了者から選ばないといけない。作業主任者って言うのは、労働災害を防止するための管理を必要とする作業で、政令で定めるもの…、つまり、足場の組立作業、地山の掘削作業、高圧室内作業とかだな。について、労働者の指揮その他を行うことができる。これもまた誰でも良いってわけじゃないんだ。作業主任者技能講習修了者から選ぶ必要がある。」
「ちなみに、この二つの役職は両方兼ねることもできるが、それには両方の資格を持っている者じゃないといけないぞ。」
「知りませんでした…」
「まぁ、ここら辺は前置きとして知っておいてくれ」
「分かりました!」
2話に続く…