不思議な夢のお話 Episode5
あれから俺達は、帰る方法を必死で探した。
型枠をひたすら作ってみたり、最初に寝ていた場所に行ってみたり。
とにかく様々なことを試してみたけど、なにも起こらなかった。
「…僕、気付いたことがある」
途方に暮れていたところ、雷電君が口を開いた。
「気付いたことって?」
「大和君…、本当に帰りたいと思ってる?」
雷電君の言葉にハッとした。
確かに…そうなのかもしれない。
俺はこの世界に来てから、最初は戸惑って、どうなるか不安で仕方なかったけれど。
三人に会って、一緒に型枠を作って、凄い凄いって、必要とされて…
そうだ。
俺は、俺自身を必要としてくれるこの世界が居心地良くて、気付かないうちにこのままでいいやって。
帰れなくていいやって、心のどこかで思っていたんだ。
「…ごめん」
「やっぱり、そうなんだね」
「きっと、俺を必要としてくれてるって、嬉しくて…、帰れなくてもいいやって…」
雷電君はそう言っている俺をジッと見つめると、更に言葉を続けた。
「大和君がいたいなら、ずっと居ればいいよ」
「大和君が居なくなったら、僕たちも悲しいよ」
それを聞いた足場君が大きくため息をついた。
「馬鹿じゃねぇの。自分を必要としてくれるから帰りたくないって?馬鹿すぎて話になんねぇな」
「なんで…そんな。確かにみんなには申し訳ないって思ってる…。結果的に…無駄なことをさせてしまって…」
「そんなことはどうでもいいんだよ。」
足場君の怒りを含んだ声に恐る恐る顔を上げた。
「元の世界には、お前のこと誰も必要としてねぇんだな?」
「そ、そうだ!僕が居なくても現場は回る!誰も必要となんてしていない…」
「現場だけの話をしてるんじゃねぇんだけどな」
「親、友達、兄弟。お前が居なくてもケロッと生活するんだな。」
「それは…」
「現場だって、今後のお前の努力次第だ。」
言い淀む俺に、足場君は続ける。
「初めてお前がこっちに来た時、俺達は最初からお前を必要としてたか?」
「知らないやつ…だったよね」
「そうだろ?それをお前は自分自身で変えた。元の世界でも同じようにすればいいだけだ。」
足場君の言葉に、自分でもビックリするくらい、視界が晴れた気がした。
帰ろう。元の世界に。
その時、鉄骨君が小さな巾着袋を差し出してきた。
「俺達が初めて一緒に作った型枠の欠片がこの中に入ってる。大事にしろよ。」
「ありがとう。絶対に大事にする。」
両手で巾着袋を握りしめると、途端に視界が真っ暗になった。
ピーピーピーピー!
「ん…、あれ…」
目を覚ますと、見慣れた自分の部屋だった。いつも通りの朝。
「なんだ…、やっぱり夢か…」
長い夢だったな…。
そう思い、起き上がろうとしたとき、何かが体に触れた。
もぞもぞと布団の中を漁ると、小さな巾着袋。
「夢じゃ、なかったか」
思わず笑みが零れた。
FIN.