東京都足立区の建設会社、大和工務店

不思議な夢のお話 Episode5

2015/12/01

あれから俺達は、帰る方法を必死で探した。

型枠をひたすら作ってみたり、最初に寝ていた場所に行ってみたり。

 

とにかく様々なことを試してみたけど、なにも起こらなかった。

 

「…僕、気付いたことがある」

途方に暮れていたところ、雷電君が口を開いた。

 

「気付いたことって?」

「大和君…、本当に帰りたいと思ってる?」

 

雷電君の言葉にハッとした。

 

確かに…そうなのかもしれない。

俺はこの世界に来てから、最初は戸惑って、どうなるか不安で仕方なかったけれど。

三人に会って、一緒に型枠を作って、凄い凄いって、必要とされて…

 

 

 

そうだ。

 

 

俺は、俺自身を必要としてくれるこの世界が居心地良くて、気付かないうちにこのままでいいやって。

帰れなくていいやって、心のどこかで思っていたんだ。

 

「…ごめん」

「やっぱり、そうなんだね」

 

「きっと、俺を必要としてくれてるって、嬉しくて…、帰れなくてもいいやって…」

雷電君はそう言っている俺をジッと見つめると、更に言葉を続けた。

「大和君がいたいなら、ずっと居ればいいよ」

 

「大和君が居なくなったら、僕たちも悲しいよ」

 

それを聞いた足場君が大きくため息をついた。

「馬鹿じゃねぇの。自分を必要としてくれるから帰りたくないって?馬鹿すぎて話になんねぇな」

「なんで…そんな。確かにみんなには申し訳ないって思ってる…。結果的に…無駄なことをさせてしまって…」

「そんなことはどうでもいいんだよ。」

 

足場君の怒りを含んだ声に恐る恐る顔を上げた。

 

「元の世界には、お前のこと誰も必要としてねぇんだな?」

「そ、そうだ!僕が居なくても現場は回る!誰も必要となんてしていない…」

「現場だけの話をしてるんじゃねぇんだけどな」

 

「親、友達、兄弟。お前が居なくてもケロッと生活するんだな。」

「それは…」

「現場だって、今後のお前の努力次第だ。」

言い淀む俺に、足場君は続ける。

 

「初めてお前がこっちに来た時、俺達は最初からお前を必要としてたか?」

「知らないやつ…だったよね」

「そうだろ?それをお前は自分自身で変えた。元の世界でも同じようにすればいいだけだ。」

 

足場君の言葉に、自分でもビックリするくらい、視界が晴れた気がした。

 

帰ろう。元の世界に。

 

その時、鉄骨君が小さな巾着袋を差し出してきた。

「俺達が初めて一緒に作った型枠の欠片がこの中に入ってる。大事にしろよ。」

「ありがとう。絶対に大事にする。」

 

両手で巾着袋を握りしめると、途端に視界が真っ暗になった。

 

 

 

 

 

ピーピーピーピー!

「ん…、あれ…」

目を覚ますと、見慣れた自分の部屋だった。いつも通りの朝。

 

「なんだ…、やっぱり夢か…」

 

長い夢だったな…。

そう思い、起き上がろうとしたとき、何かが体に触れた。

もぞもぞと布団の中を漁ると、小さな巾着袋。

 

 

 

 

「夢じゃ、なかったか」

思わず笑みが零れた。

 

 

 

 

 

FIN.